V含有の多い鋼材は真空炉だと硬さが十分に出ない事は以前考察した。気体冷却では冷却速度が間に合わないためと思われる。
これはもしかしたら粉末鋼固有の問題なのかもしれない。今回CV134をはじめて使ったが、V含有量が多いにもかかわらず、硬さは真空炉でも十分に出ている様だった。炭素量の影響もあるが、それでもC/Vの比率でいったらSPGⅡの方が大きい。単純に炭素量が多いからという訳でもでもなさそうだ。
高合金の溶製鋼は一次(共晶)炭化物の問題がある。
大抵の粉末鋼は組織観察すると3μm前後の炭化物が均一に分布している。自分はこの炭化物が溶製鋼における一次炭化物に相当するものだと思っていた。
しかし観察していて粉末鋼は熱処理時にこの炭化物が固溶して小さくなっている事が分かった。
粉末鋼の場合は溶製鋼の様な一次炭化物と二次(共析)炭化物の明確な区別がないのかもしれない。
CV134はVの含有量が多いが、そのほとんどは一次炭化物中にあると思われる。一次炭化物は熱処理ではほとんど固溶する事がない。焼入れ時に基地に固溶するのは二次炭化物だ。
先の考察の通りV含有量が多くなると臨界冷却速度が速くなるのは、Vの炭化物傾向が大きい事が原因になっている。冷却速度が遅いとVと炭素が結びついてVの炭化物が析出するからだ。
析出には種になる炭化物があると促進される。粉末鋼の場合、均一に分布した炭化物が核になって析出しやすいのだと思われる。基地中に固溶した炭素が食われるので、硬さが出にくくなる訳だ。
溶製鋼のCV134の場合、Vの炭化物は大部分が一次炭化物として存在するので、冷却速度が遅くても核にならない。したがって基地に固溶した炭素が食われる事がないので、十分な硬さが出るのだと思う。
粉末鋼ってのは焼入れの熱処理に際して炭化物の固溶はしやすいが、冷却時には析出のしやすいものなのかもしれない。
固溶のしやすさでいうとATS34よりRWL34の方が同一条件で熱処理した場合、硬さがHRcで1~2ほど高くなる。焼入れ性がいいといえる。V量が少ない粉末鋼は大方この様な特性があるみたいだ。
Vなどの炭化物傾向の大きい合金元素を含む粉末鋼は注意が必要な事が分かった。おそらくWやNbなども多く含むと同じ様な問題が出てくると思われる。これら炭化物傾向の大きな元素を含有する場合は、焼入れのオーステナイト化温度を高くする必要もある。
究極的にはソルトバスを使って冷却は油冷を指定してやればいいのかもしれない。
しかしS&Rの様な削り出しでは、油冷した場合大きく歪むので、あとの加工が厄介になる。
歪みを見越して厚く残して、熱処理後に削って調整するか?・・・しかし研削熱が掛かるので低温焼き戻しの場合はいい事がない様に思う。
ナイフ鋼材オタクのブログには電気炉を使って「プレートクエンチ」というアルミ板に挟んで冷却する方法が書かれている。おそらく冷却速度は空冷と油冷の間ぐらいになるのだと思う。
熱処理条件を自由に設定できるのも魅力だが、設備費を稼働費を考えるとどうなんだろうか・・・結局のところサブゼロ付きで2時間二回の高温焼き戻しをやる真空炉の熱処理が、1本千円ちょっとでやってもらえるのは格安なのかもしれない。
硬い炭化物がジャリジャリ入った鋼種ではあるが、D2などよりは硬さもあって靭性にも有利なのかもしれない。
繊細な刃付けは無理かもしれないが、タフな鋼種というのは確かなんだと思う。
いつも理路整然として分かり易い内容で解説ですね。
返信削除とても参考になっています。
またモノズキさんのCVでの
制作記事ですが、
自身で数本ほどCVでナイフ制作してますから、同じような感想なので安心しました(笑)
ありがとうございます~
削除ちょっと癖はありますが、案外いい鋼材なのかもしれないですねw
以前に野営の際にCV制のナイフで仕方なくバトニング?
返信削除薪割りしたけれども問題なくて
その後も研ぎ直ししないで使用しているから刃持ちは良いです。
個人的意見ではATSよりは好みなんですが繊細な刃はつかないかな
溶製鋼の割には巨大な炭化物が少ないので、靭性があるのかもしれないです。
削除炭化物が硬いので、ザラっと研いで使うと刃持ちよくザクザクと長切れするのかもしれないですね。