使った事のある鋼材を、硬さ、耐磨耗性、耐食性、組織微細、靱性の項目に、五段階に評価してみた。耐磨耗性、耐食性、靱性については主観である。
組織写真は600倍で、横の画角が約100μmになる。
ATS34
硬さ 3
耐磨耗性 3
耐食性 3
組織微細 2
靱性 3
高温焼戻しで60、低温焼戻しだと63程度まで上がる。オーステナイト系温度は高目。
十数μmの共晶炭化物があるため、精緻に刃先を研いでも使用中に脱落して刃先の劣化になる。
耐食性は低温焼戻しの方がいいが、高温焼戻しでも実用上は問題ない。
突出した部分はないが、概ね平均的。
D2硬さ 4
耐磨耗性 3
耐食性 1
組織微細 1
靱性 2
比較的オーステナイト化の温度が低い。高目で熱処理すると、基地の結晶粒肥大化になる。
30μm近くの共晶炭化物が存在する場合がある。このためミクロンレベルの靱性は比較的低くなる。精緻な刃付けにはむかない。
C量が多いため、Crが炭化物に食われ基地に固溶する量が減り耐食性は悪い。
硬さがある程度あり粘りも少ないので、ザラッと研ぐには使いやすい。
RWL34
硬さ 4
耐磨耗性 3
耐食性 3
組織微細 3
靱性 4
低温焼戻し、高温焼戻しとも、ATS34より1程度高くなる。
炭化物は顕微鏡観察で見える範囲では4μm程度。Vの含有量は少ないので炭化物自体はそれ程硬くなく、そのため耐磨耗性は大きくない。
巨大な炭化物がないので、ATS34より若干耐食性はいい。
ATS34の欠点を解決した鋼材といえる。
10C28Mo2
硬さ 2
耐磨耗性 2
耐食性 4
組織微細 5
靱性 5
共晶炭化物がなく、炭化物の量が少なく細かい。炭化物は大きくても1μm程度。研ぎあげれば精緻な刃が付く。炭素鋼並みに組織は細かい。
炭素量を抑えて基地に固溶するCr量を多くする事で耐食性をよくしている。
炭化物量が少ないのでオーステナイト化で溶け込むC量は少なく、硬さは低めになる。概ね60ぐらい。
硬さ 3
耐磨耗性 2
耐食性 4
組織微細 5
靱性 5
10C28MO2より炭化物量が多く、大きさも僅かに大きい。
硬さは10C28MO2より1程度高い。
耐食性と靱性は10C28MO2より幾らか低くなると思われるが、実質上はほぼ変わらない。
10C28Mo2ほどの組織の細かさが必要ないならば、これの方がバランスがいいかもしれない。中研程度までで使うなら十分だろう。
硬さ 3
耐磨耗性 4
耐食性 4
組織微細 3
靱性 4
真空炉の気体冷却では硬さが僅かに低くなる。高温焼戻しで60程度、低温焼戻しだと61ちょっと。
炭化物は顕微鏡観察で3~4μm程度。Vにより炭化物は硬い。耐磨耗性は高いが、S30Vほどではない。しかしその分、靱性はやや高い。
耐食性は比較的よく、高温焼戻しでも実用上問題ない。
硬さ 2
耐磨耗性 5
耐食性 2
組織微細 3
靱性 3
オーステナイト化が高い必要があり、真空炉の気体冷却では硬さが出にくい。低温焼戻しで60、高温焼戻しで59程度。
炭化物はVにより硬く量も多いので、耐磨耗性は非常にいい。観察では3μm前後で分布しているが、密度か高く繋がっている部分も見られる。そのためか靱性はやや低い。
炭化物に食われるCr量がやや多いため、耐食性も若干低い。
手で研いで使うより、動力機械で刃付けして使う方がいと思う。
硬さ 5
耐磨耗性 3
耐食性 1
組織微細 3
靱性 1
炭化物の多くがCrによるため、オーステナイト化温度がやや低め。D2と同じぐらい。
Cr炭化物が主体のため炭化物自体による耐磨耗性は高くないが、基地の硬さがあるためそこそこの耐磨耗性になっている。
炭化物は概ね3~4μm程度で観察され、密度が非常に高い。このため基地の硬さも高い事もあり靱性は比較的低い。
Cr量に対しC量が多いので、基地に固溶するCrが少なく耐食性は低い。
硬さ 3
耐磨耗性 4
耐食性 5
組織微細 4
靱性 4
オーステナイト化温度が高目である必要はあるが、V含有が多い粉末鋼の割には真空炉の気体冷却でも硬さは出やすい。61程度。
他の粉末鋼より炭化物は幾分細かい。Vによる窒炭化物の様で、硬さがある程度あるので耐磨耗性はいい。細かいため靱性もよい。概ね3μmより小さい。
C量を抑えているので、Crが基地に多く固溶するため、耐食性はステンレス鋼のなかでは非常にいい。
硬さ 1
耐磨耗性 1
耐食性 5
組織微細 5
靱性 5
基本的にはオーステナイト系ステンレス鋼を、加工誘起のマルテン化で硬化させるらしい。硬さは57程度。耐熱性がある様に言われるが、実際は加熱すれば硬さは落ちる。
Cはほとんど含まないので、炭化物はほぼ存在しない。そのため耐磨耗性は非常に低い。硬さが低く炭化物がないので靱性は高い。
基地の結晶粒は大きい様にも見えるが、炭化物がないので、相対的に組織は細かく感じる。
Cを含まないので含有するCrのほとんどが基地にあるため、耐食性は非常に高い。
オーステナイト系ステンレス鋼特有の問題で、組織中に僅かにデルタフェライトが存在する。これは基本的にフェライト相なので柔らかいため、刃先の劣化の原因になる。炭化物がない事もあわせてH1特有の切れ味の原因になっていると思われる。
硬さ 4
耐磨耗性 5
耐食性 2
組織微細 2
靱性 3
共晶炭化物はD2とATS34の中間的な大きさで、その密度は非常に高い。Vにより炭化物の硬さもあり耐摩耗性はとても高い。
大きく硬い炭化物のため、研ぎ上げて精緻な刃付けには向かない。ザラっと研いでザクザク切る用途に向く。手研ぎより動力機械の刃付けの方がいいのかもしれない。
V含有の多い粉末鋼の様な気体冷却で硬さが出にくくなる事はないので、真空炉の熱処理で十分いける。
D2の熱処理条件でも十分硬さは出るが、オーステナイト化温度を高めにした方が硬さと耐食性で有利になる。64近くの硬さが出るが、若干焼き戻し温度を高めて62程度で使うのがいい。
二次硬化するので、高温焼き戻しでもいける。その場合硬さは60程度。耐食性はさらに落ちるが、高負荷な使い方にはいいかもしれない。
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