2022年3月12日土曜日

S35VN

ご依頼でS35VNを使う事になった。
組成からして焼入れのオーステナイト化温度が高目でないといけない事は分かっていた。
二次硬化する高温焼き戻しで使うべきか、それとも硬さと耐食性で有利な低温焼き戻しで使うべきか悩むところだ。
とりあえず端材で試験片を作って調べてみる事にした。

硬さを測ってみた。
S30Vと比較してみたが、やや硬さが低い様だ。しかしこのぐらいの違いは鋼材と熱処理のバラつきもあるので、実際のところは何とも言えない。
しかし概ねS35VNとS30Vは傾向がよく似ている事は分かった。

ちなみにだがマトリックスアイダのATS34とCRMO7の熱処理条件は、D2などよりオーステナイト化温度が数十度高い。ATS34は二次硬化する高温焼き戻しで、CRMO7は硬さを稼ぐために低温(D2より数十度低い)焼き戻しになっている。
あまり知られていないがCRMO7もオーステナイト化の温度が高目である。炭素量に対して炭化物傾向の高いMo含有量が多いので、炭素を固溶するのに温度が高い必要があるから。

S35VNとS30Vの資料を見直してみると、熱処理条件による硬さの特性は全く同じ事が書いてある。
テンプレートで同じにしてしまったのかと思っていたが、試験片の結果から見てほぼ同じ特性なのは間違いない様だ。


 注意書きが小さく書いてあるのだが、真空炉での気体冷却だと硬さがHRcで1~2低くなるとある。
以前考察したが、おそらくVの含有量が多くなると冷却速度を速めないと硬さが出にくくなるのだと思われる。
スーパーゴールドⅡもその傾向があって、同じ様な事が武生の資料に書かれていた。
究極的にはソルトバスで油冷却を指定すればいいのだが、ソルトは肌が絶望的に荒れるし、油冷却では薄いエッジは変形する可能性がある。そのため削り代を残して処理しなければいけなくなるが、あとの手間が大きくなってしまう。結局掛けた手間に見合う性能向上になるのかという問題になる。コストもあるのである程度の割り切りってのは必要だ。

S35VN生材600倍。
600倍は横方向の画角がちょうど100μmになる。

S35VN生材150倍。

S35VNマトリックスアイダCRMO7の条件600倍。

S35VNマトリックスアイダCRMO7の条件150倍。

S35VNマトリックスアイダATS34の条件600倍。

S35VNマトリックスアイダATS34の条件150倍。


S30V生材600倍。

S30V生材150倍。

S30VマトリックスアイダCRMO7の条件600倍。

C30VマトリックスアイダCRMO7の条件150倍。

S30VマトリックスアイダATS34の条件600倍。

S30VマトリックスアイダATS34の条件150倍。

S30VとS35VNの組織はよく似ている。
高温と低温の焼き戻しも、基本的には大きくは違わない。生材と比べると幾分炭化物が固溶して小さくなっている。基地の粗大化も見られないので、オーステナイト化温度は適正な事が分かる。

エッチングで気がついたが、高温焼き戻しより低温焼き戻しの方が腐食しにくかった。
高温焼き戻しは二次硬化するのに微細な炭化物の析出がある訳だが、その時に基地に固溶していたCrが炭化物に食われてしまう。このため幾分耐食性が不利になる。
しかし経験上だがATS34やSPGⅡなどで見ていて、実用では低温と高温焼き戻しでは大きな差を感じる事はない。

ご依頼でS35VNでセミスキナーを作ってる。
試験片の結果から低温焼き戻しで熱処理してみた。
生材の状態で1000番以上の掛かりが絶望的だった。
1500番までは掛けたが、熱処理後はどうなんだろか・・・














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