2023年8月30日水曜日

VG10を使ってみる



試作がてら小ナイフを作る。
自分では使わない鋼材だが、VG10を使ってみる事にした。
熱処理は試しにマトリックスアイダで、ATS34の条件とCRMO7の条件でやってもらった。
画の上がATS34の条件で、下のはCRMO7の条件になる。ATS34とCRMO7は焼入れのオーステナイト化の温度は同じだが、焼き戻しの条件に違いがある。ATS34は二次硬化する高温焼き戻しだが、CRMO7は硬さ優先の極低温の焼き戻しになる。

VG10は炭素量に対してのCr、Mo、Vの含有量からみて、焼入れのオーステナイト化温度は高目なんだと思う。
ナイフによく使われる鋼材だと、D2、440C、420J2、などは比較的オーステナイト化温度は低目でないといけないが、炭素量に対して炭化物傾向の大きい合金元素の含有量が増えるとオーステナイト化の温度は高くなる傾向がある。SPGⅡやATS34、S30Vなどや、CRMO7も炭素量に対してMoの含有量が多いのでオーステナイト化温度が高目でないといけない。
生材の状態では合金元素の多くは炭素と結びついて炭化物になってるいる訳だが、炭化物傾向が高いとオーステナイト化でなかなか分解できず、高温にならないと炭素が基地に十分溶け込まなくなる。低目のオーステナイト化では硬さが十分に出なくなる。

オーステナイト化温度の注意点としてもう一つは、基地に固溶する合金量がある。
耐食性に働くCrは生材においては炭化物中に存在する。MoやVもCrがある程度の量があると、Crとともに複炭化物として存在している。オーステナイト化温度が低いと合金元素が基地に十分溶け込まないので、耐食性などに問題が出る事がある。

しかし闇雲にオーステナイト化温度を高くする訳にもいかない。炭化物の過度の溶け込みはピン留め効果がなくなり、基地のオーステナイト結晶粒が粗大化する。必要以上の炭素の溶け込みも残留オーステナイトの増加により硬さが低下する。

とりあえず硬さを測ってみた。

ATS34の条件で59程度、CRMO7の条件で62程度というところか。焼き戻しの条件もあるのかもしれないが、思ったほど二次硬化は上がらないみたいだ。
ATS34がCRMO7の条件で63程度になり、ATS34の条件は60ちょうどぐらいなので、VG10の方が硬さが僅かに出にくいのかもしれない。Coの影響で冷却速度で真空炉だと不利なのだろうか。
VG10はマトリックスアイダに普通に出すとおそらくD2の条件で処理されるので、硬さは60ちょうどぐらいになるんじゃないかと思う。

余談ではあるが硬さの測定って意外と面倒なものだ。
測る物の表面状態でバラつきは大きく変わるし、そもそもが原理的に2/1000㎜単位の測定なので、色々な要因でバラつきが出る。
一回や二回程度ではとてもじゃないが正確な値を知る事は出来ない。
硬さ基準片を使って実際との差を確認して測定する必要もある。
熱処理屋さんがおまけで測ってくれる様なものは信用できない。
ある熱処理屋さんの硬さ測定は、実際より表示が1~2程度高目だった。

念のため組織を観察してみた。
マトリックスアイダATS34の条件600倍。横の画角がちょうど100μm。
研磨とエッチングがいい加減なので今一見にくいが、一次炭化物の大きさや分布はATS34に結構似ている。観察するかぎるでは炭化物の溶け込みすぎやオーバーヒートの兆候は見られない。

今回使ったのは2.6㎜厚のVG10だった。以前もっと厚い(4㎜程度?)のVG10の生材を観察した時はもうちょっと大きい気がしたので、厚みにより圧延比の違いで一次炭化物の細かさが変わるのかもしれない。
積層鋼はその傾向があって、コアレスになると相当圧延比がかかるためか、無垢材と比べて一次炭化物の大きさは非常に細かい物になっていた。

マトリックスアイダATS34の条件150倍。

マトリックスアイダCRMO7の条件600倍。
基本的に高温焼き戻し(ATS34の条件)とあまり変化がない。

マトリックスアイダCRMO7の条件150倍。

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