2024年1月19日金曜日

残留オーステナイト


 前回高温焼き戻しについて考察した。あの後も色々考えてみた。
高温焼き戻しの利点にはもう一つある。残留オーステナイトがほぼ無いという点だ。
高温焼き戻しは焼き戻し中に微細な炭化物の析出がある訳だが、この時の炭素拡散で残留オーステナイト中の固溶炭素量が減少して、Ms点が上昇する事で焼き戻し後の冷却でマルテン化するそうだ。焼き戻しを数回繰り返すのもマルテン化した分を焼き戻す意味合いがあるらしい。完全ではないのかもしれないが、高温焼き戻しが残留オーステナイトが非常に少ないのは確かなのだろう。

低温焼き戻しの場合、通常サブゼロをしても20%前後のオーステナイトが残るそうだ。
残留オーステナイト自体は延性があるので、硬さの影響がない程度に有る分には靭性に有利に働く可能性もある。
しかし残留オーステナイトは応力が加わると加工誘起のマルテン化する事がある。刃先の様なミクロン単位の領域だと、物を切ってる時や刃先を研ぐ時は結構な応力が繰り返し掛る事になる。マルテン化した場合硬さが上がるが、焼き戻しされていない事になるので問題がある様に思う。
以前ブログで紹介したが切れ味には回復という現象があるらしい。(リンクが切れているのでこちらから「安全剃刀の切味と恢復」
回復の現象は残留オーステナイトも関わっているのではなかろうか。
ナイフマガジンの2014年の12号に精肉屋さんの取材記事がある。これには「1本を使い続けると金属疲労のような現象が起こるのか・・・」とか「刃物は研いでからちょっと休ませたほうが刃の調子がいい・・・」っていう記載がある。これも回復の現象なんだと思う。

もう一つ残留オーステナイトは加工誘起のマルテン化した場合膨張するが、この膨張が亀裂を閉じる様に作用して亀裂の伝搬を防ぎ、疲労破壊をしにくくする場合があるらしい。
残留オーステナイトは条件によっては有った方がいいのかもしれない。しかしその場合どの程度の量がいいのか、その条件とはどういった状況なのか・・・果たして刃先の様なミクロン単位の領域では非常に難しい問題だ。

結局のところ有っても無くても決定的な違いがないのならば、高温焼き戻しで残留オーステナイトが少ない方がいい様に思えてきた。
但し耐食性は不利になる。高温焼き戻しで析出する炭化物によって、基地に固溶しているCrが食われるから。RWL34で高温と低温の焼き戻しで使った場合、僅かに高温の方が腐食しやすい様に感じられたが実用上は全く問題なかった。
硬さが必要ならば低温焼き戻しにすればいい。そんな使い分けでいいのかもしれないな・・・










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